【開催レポート】リーダーシップ・ナイト:土井香苗氏(ヒューマン・ライツ・ウォッチ 日本代表)
2025年11月26日
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「リーダーとしての私の仕事は、人々に『希望』を与えることです。戦略的に行動すれば、法律や社会の仕組みは変えられるのだと信じてもらうために。」

 

 

2025年11月18日、至善館のMBAプログラムの一環である「Leadership Night*」を開催しました。本セッションは、変革を牽引するリーダーをゲストに迎え、その人生の旅路やリーダーシップの真髄に迫る対話型講義です。

 

第2回となる今回は、国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」日本代表の土井香苗氏をお迎えしました。モデレーターは本学教授のPatrick Newellが務め、至善館学生を代表して、MBAプログラム1年生のNathanとSerinaが進行をサポートしました。

 

弁護士としてのキャリアを捨て、日本に拠点のなかった国際NGOの支部を立ち上げるという、前例のない道を切り拓いてきた土井氏。その原動力と、彼女が考えるリーダーシップの本質について語っていただきました。

 

■ 幼少期の葛藤と、「現場」への衝動

横浜で育った土井氏の幼少期は、決して順風満帆なものではありませんでした。親からは高圧的に対応され、「ミスが多いから必ず社会で失敗する」「資格を取らなければ社会人として生きていけない」と言われ続ける日々。しかし、中学2年生の時に出会った犬養道子氏の著書『人間の大地』が転機となります。そこに描かれた難民キャンプの過酷な現実に衝撃を受け、「現場に行って何かしたい」という強烈な思いが芽生えました。

東京大学在学中、司法試験に合格しながらも、彼女の心は常に「現場」にありました。大学4年時には、当時独立したばかりのアフリカ・エリトリアへ単身渡航。法務省のドアを叩き、「法律を作る手伝いをさせてほしい」と直談判し、1年間のボランティア活動に従事します。「とにかく現場の現実を知りたい」という情熱と行動力が、彼女のキャリアの原点となりました。

 

■ 「24時間、人権活動に没頭したい」——ゼロからのHRW東京オフィス立ち上げ

帰国後、弁護士として活動を開始した土井氏は、日々の業務の傍ら、プロボノとして難民支援を行っていました。しかし、睡眠時間を削っての二足のわらじに限界を感じ、「24時間すべてを人権活動に捧げたい」と決意します。

ニューヨーク大学への留学を経て、現地で「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のフェローとして活動。そこでプロフェッショナルな調査とアドボカシー(政策提言)の力に魅了されます。帰国直前、当時のHRW代表から「日本支部を立ち上げ、資金調達をしてくれないか」と打診されたことが、第二の転機となりました。

資金調達の経験が皆無だった土井氏ですが、大学時代の友人を頼り、そこから著名な投資家へ次々と人脈が繋がり、設立に必要な資金を集めることに成功します。「情熱」と「行動」が人々を動かした瞬間でした。

 

■ リーダーシップの鍵は「フォロワーシップ」

セッションの中で、土井氏が自身の「好きな言葉」として挙げたのが**「フォロワーシップ」**でした。

「社会変革(ソーシャル・ムーブメント)は一人では起こせません。誰かがリーダーシップを発揮している時、それを支えるフォロワーの存在が不可欠です。私自身、リーダーとして活動する一方で、他の誰かが声を上げている時は、その良き『フォロワー』でありたいと思っています。連帯(Solidarity)こそが、社会を変える力になるからです」

自身を「生まれながらのリーダーではない」と語る土井氏。自身の情熱(Passion)と、解決したい課題(Cause)のために、「リーダーにならざるを得なかった」と振り返ります。彼女のリーダーシップスタイルは、明確なロールモデルを模倣するのではなく、試行錯誤(Experimentation)の中で作り上げた独自のものです。

 

■ 日本の人権課題とこれからの展望

現在、土井氏は約10名のスタッフと共に、日本の法律やシステムの変革に取り組んでいます。特に「人質司法」と呼ばれる長期勾留の問題や、社会的養護下にある子どもたちの権利擁護など、光が当たりにくい問題に注力しています。

「法律を変えることは非常に困難で、失敗することの方が多い。だからこそ、スタッフやパートナーたちに『希望』を見せ続け、諦めずに夢を見続けることが、リーダーとしての私の役割です」

外圧(Gaiatsu)と国内世論を組み合わせることで、LGBT理解増進法のような変化も生まれています。土井氏は、参加者に向けて「SNSでのシェア一つでも、立派なフォロワーシップです。声を上げ続けることで、民主主義社会は変わっていきます」と力強いメッセージを送りました。

 

「リーダーシップ・ナイト」とは

至善館の正式科目「リーダーシップの旅を展望する」の一環として、毎月1回、日本語セッションと英語セッションを一部外部にも開放して実施しています。

各界の第一線で活躍するリーダーをゲストに招き、その方々のリーダーシップ・ジャーニーを伺うことで、参加者が自身の未来を展望し、自らのリーダーシップの旅を見つめ直す機会としています。

至善館の学生にとっては、潜在的なロールモデルやサポーターとなりうる実践者(挑戦者)との出会いの場にもなっています。

 

 

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