2025年3月17日(月)、日本橋にある至善館キャンパスにて、IDEOの創業者であり、デザイン思考とイノベーションの世界的オピニオンリーダーであるティム・ブラウン氏をお招きし、デザインの力は世界にどのように影響するかについてお話しいただきました。また、当日は、ブラウン氏とともに新会社ENND PARTNERSを日本で創業した岩渕氏から、日本が直面する社会課題と、それを解決する可能性があるデザイン思考の役割について掘り下げて議論が行われました。
ブラウン氏は、デザインを「私たちが自分たちのニーズに合わせて世界を形作るときに行う行為」と定義し、デザインは、単に見た目の美しさだけでなく、深い共感と試行錯誤を基盤とした、人間中心の創造的な問題解決プロセスであると主張します。デザイン思考の核となるのは、望ましさ(Desirability)、実現可能性(Feasibility)、持続可能性(Viability)の三つの要素のバランスが重要で、望ましさは人々のニーズや欲求を理解すること、実現可能性は技術的な可能性を活用すること、持続可能性は持続可能で強固なビジネスモデルを確立することを指します。
ブラウン氏は、デザイン中心の戦略が変革をもたらした事例として、「Dフォード」「PillPackオンライン薬局サービス」「ペルーのInnova Schools」などを紹介しました。これらの事例は、デザイン思考が単なる製品改善にとどまらず、システム、サービス、顧客体験を再構築し、業界全体の変革を促進したことの証左として紹介しました。また、日本に関して言えば、長期的な視点を持てること、社会的に安定していること、ステークホルダーを重視する企業文化などがあり、「エコシステム型の経営モデル」を基盤とする価値創造に適した環境を提供していると指摘しました。デザイン思考を取り入れることで、日本企業は短期的な効率性の追求を超え、より持続可能で影響力のあるイノベーションを生み出すことができると強調しました。
後半では、岩渕氏より、「日本企業はどのようにデザインと人間性を活かし、長期的にグローバルな競争力を構築できるのか?」というテーマについて発表をいただきました。日本は、高齢化社会、労働力不足、AIによる労働環境の変化といった多くの社会課題を抱えています。岩渕氏は、創造性とステークホルダー資本主義が、これらの複雑な課題を乗り越えるための重要な手段となることを強調しました。エコシステムを基盤とした経営モデルを普及させることで、企業は長期的な価値を創出し、社会に変革をもたらすことができるとされています。
ブラウン氏と岩渕氏が示した洞察は、デザイン思考がイノベーションとシステム変革の強力な触媒となり得ることを改めて浮き彫りにしました。人間中心の課題解決アプローチを取り入れることで、企業はより柔軟で大きなインパクトを生むビジネスモデルを築いていくことができるでしょう。このアプローチが、新たなビジネスの可能性を切り拓く原動力となることを期待します。